1.出逢い

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複雑な葛藤に苦しむ大野を……… 放課後の(わず)かな時間だけが(なぐさ)めてくれた。 彼女はいつも………… 放課後、遅くまで学校に残っている。 部に属さない彼女は、 当然、部活動に(いそ)しむ訳でもなく……… 友人らと長々、談笑するでもなく……… それでありながら、直ぐに帰宅する訳でもない。 毎日、意味もなく学校で時間をもて余していた。 放課後の教室で……… 或いは、図書室で……… 学生らしく学業に励んでいる事もあれば、本を読んで時間を潰す事もあった。 さほど熱中している訳でもない様子で、本を虚ろに見つめる彼女。 横顔から解る、長い睫毛が、いつも憂鬱そうな気配を(たた)えて伏せられていた。 退屈そうに(ページ)(めく)る。 乾いた音を立て………彼女の指から離れた(ページ)が、緩やかに落ちる。 しなやかに(めく)る指先を見つめている内に………… (もしや…………、 彼女は帰宅を拒んでいるのではないだろうか――――?) そう、思うに到った。 家庭に何らかの事情を抱えているのだろうか……? それならば、教師として見過ごす訳にはいかない。 生徒を気遣うのは教師として当然の役割…… 悩みを抱える生徒が居るならば……… 教師である自分が相談にのってやらなくてどうする。 大野の姿勢は、それまでと一変し、 積極的に彼女に話し掛けるようになった。 障壁(しょうへき)にしかならぬと考えていた教師という肩書が、此処にきて初めて()きる。 なまじ生真面目な大野を『教師』という役割が、いつもよりも積極的で饒舌な性質に変えた。
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