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複雑な葛藤に苦しむ大野を………
放課後の僅かな時間だけが慰めてくれた。
彼女はいつも…………
放課後、遅くまで学校に残っている。
部に属さない彼女は、
当然、部活動に勤しむ訳でもなく………
友人らと長々、談笑するでもなく………
それでありながら、直ぐに帰宅する訳でもない。
毎日、意味もなく学校で時間をもて余していた。
放課後の教室で………
或いは、図書室で………
学生らしく学業に励んでいる事もあれば、本を読んで時間を潰す事もあった。
さほど熱中している訳でもない様子で、本を虚ろに見つめる彼女。
横顔から解る、長い睫毛が、いつも憂鬱そうな気配を湛えて伏せられていた。
退屈そうに頁捲る。
乾いた音を立て………彼女の指から離れた頁が、緩やかに落ちる。
しなやかに捲る指先を見つめている内に…………
(もしや…………、
彼女は帰宅を拒んでいるのではないだろうか――――?)
そう、思うに到った。
家庭に何らかの事情を抱えているのだろうか……?
それならば、教師として見過ごす訳にはいかない。
生徒を気遣うのは教師として当然の役割……
悩みを抱える生徒が居るならば………
教師である自分が相談にのってやらなくてどうする。
大野の姿勢は、それまでと一変し、
積極的に彼女に話し掛けるようになった。
障壁にしかならぬと考えていた教師という肩書が、此処にきて初めて活きる。
なまじ生真面目な大野を『教師』という役割が、いつもよりも積極的で饒舌な性質に変えた。
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