1.出逢い

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「父は多分……… 母の代わりを求めているんだと思います」 彼女は言う。 「父は亭主関白を気取り、家庭を支配したがる所のある人でしたが……… 本当は、只の子供なんです。 どれだけ自分を大きく見せようとしても、 本当は、とても気が小さくて………… だから、母が生きていた頃の……… 実態としては、母の手のひらの上で転がされている状態が本当は心地好かったんだと思います。 母は、どっしりと構えた性格の人ですが…… 母もまた、自分がどれだけ必要とされているかで相手の愛情を(はか)るような人でしたから………… 夫婦でありながら、母と子のようで……… 寂しがりで、密着感を求めているような二人には、互いが丁度良い相手だったのだと思います。 相性の良い夫婦でした」 「聞いていると何だか…… とても、仲の良い家族に思えるけれど」 不用意な大野の一言に……… 一瞬、沙夜香は顔をしかめた。 「…………そうですね。 他人から見たら、そう見えるかもしれません。 でも………内情は違ったんです」 彼女は伏し目がちに続けた。 「確かに夫婦仲は良かったと思います。 けれど………、 家族全体が上手くいっていたかというと…………」 彼女は窓の外に目を見やり、虚空(こくう)を見つめた。 過去を反芻(はんすう)するように目を閉じた。その瞼は、微かに震えていた。 その表情に……… 過去を楽しむような晴れやかさは無く、 代わりに(うっす)らとした(かげ)りが彼女を覆った。
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