レイニー・デイ

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 雨の日のことだった。友人に「これから飲みに来ないか」と誘われ、特に断る理由もなかったため、雨のなかを歩いている。  しばらく細い道を進むと公園が見える。植え込みが公園の周りを囲っているが、手入れが行き届いていないらしく雑草だらけだ。まだ夕方とはいえ雨のせいで辺りは暗く、人の姿はない。  その公園を囲う植え込みのそばに、黒く大きい塊があった。ゴミ袋か何かだろうと思いつつ、もう少し歩を進める。すると、黒い塊だと思っていたものは膝を抱えた人だと分かった。黒いTシャツと黒いパンツを身につけた女の人が、雨にうたれて丸くなっている。  ゴミ袋だと思っていたものが人間だとは想像もしていなかったため、彼女の数歩手前で立ち止まる。彼女はこちらに気づいていないのか、ぴくりとも動かない。  このまま素通りしようか、と一歩踏み出す。こんな雨のなか人通りの少ないこの道にうずくまっているからにはよほどの事情があるのかもしれないし、その事情に首を突っ込むつもりはない。  でも、とまた立ち止まる。これからますます暗くなったら、彼女の身が危ないかもしれない。ここで彼女を無視して友人の家に行っても、きっと彼女のことが気になってしまうだろう。  それでもしばらく悩んだが、もし泣いているようだったら傘だけ渡して立ち去ろうと決め、おずおずと声をかける。 「あの、大丈夫ですか」 呼びかけは聞こえたようで、その人がはっとしたようにこちらを向いた。切れ長の目、その視線が僕を捉える。美人だった。真っ黒で短い髪が雨に濡れ、頬に張りついている。  こちらを見上げ、彼女は細い声で言った。 「私、駅を探していて」 声も話し方もはっきりしている。泣いてはいないようでほっとした。 「駅ですか」 駅というのはきっとここの最寄り駅、友人の家のすぐ近くにあるものだろう。 「駅は通り道なんですが、案内しましょうか」  どうせ通り道、それに困っている人を見捨てるのも後味が悪い。怪しい人間だと思われないよう、できるだけ紳士的に提案する。 「いいんですか」 疑問形で遠慮しながらも、彼女の声には安心したような響きがあった。 「良かったら、どうぞ」 「ありがとうございます」 彼女の方に傘を傾けると、彼女は感謝の言葉とともに傘の中にするりと入ってきた。
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