レイニー・デイ

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「最近この街に越してきたんです。まだこの辺りのことが分かっていなくて」 「そうなんですね」 同じ傘の中で彼女がここに至るまでの経緯をひと通り聞き、そこで会話は途切れた。雨粒が傘をうつ音が、やけに大きく聞こえる。  彼女の話に耳を傾けている途中、これはいわゆる相合傘ではないかと気づいてから、彼女の話はほとんど頭に入ってこなかった。相合傘、つまり一つの傘に二人の人間が入っている。当然ながら、近い。肩が触れ合うような距離であるし、実際ふとした拍子に肩が当たり「すみません」と小声で謝りあう。この気まずさを何とかしたいが、気の利いた話題が見つからない。 「その髪……」 あとは上手いこと話を続けてくれと念じながら声を振り絞る。彼女の漆黒の髪の毛。その毛先だけは真っ白だった。 「変ですかね」 願いも虚しく、彼女は首をかしげてこちらを見る。 「そういうわけでは」  彼女の問いかけで、苦い記憶が胸をよぎる。数日前、茶髪の女友達が毛先だけを金色にしてきた。それを見て「なにその中途半端な髪の毛」と正直な感想を口にしたところ、喧嘩になったのだ。「分かってないね」彼女は言った。「ファッションのことも、女心も」     
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