レイニー・デイ

4/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 同じ過ちは繰り返すまい。そう固く決心する。そして何とか良い褒め言葉を、と必死になるが、月並みな言葉しか出てこなかった。 「おしゃれだと思います」 「おしゃれですか」 おそるおそる彼女の横顔をうかがう。「おしゃれですか」ともう一度繰り返す彼女の口元はほころんでいた。どうやら上手くいったらしい。よくやった、と自分に賞賛を送る。 「私の周りは皆こんな感じです。前髪とか、耳の横とか」 彼女は照れたように、うつむきながら言った。どうにか会話はつながっている。しかしこの言葉にどう返せば良いのかさっぱり分からない。さっきと同じく月並みな言葉に逃げる。 「皆さんおしゃれなんですね」 「ふふ、ありがとうございます」 月並みな言葉だって悪くない。彼女の笑顔を横目に女心が分かったような気持ちになっていると、駅が見えてきた。 「そこの横断歩道を渡ったら駅です」 ちょうど横断歩道の信号が点滅し始めた。 「では、これで」彼女はこちらに向き直って頭を下げた。「またお会いしましょう」  頭を上げ、走って横断歩道を渡る彼女を見送る。ほどなくして信号が赤に変わり、もう一方の信号が青になる。彼女の姿は、走り出した車たちに隠れて見えなくなった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!