レイニー・デイ

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 それから数日後、また例の友人に呼ばれた。細い道を抜けて、公園の脇に出る。雨上がり夕方でまだ辺りは明るいが、やはり人の姿は見えない。  植え込みに沿って歩いていると、ふと雨の日の彼女のことを思い出した。何となくあの時の彼女と同じように植え込みのそばにしゃがむ。すると、植え込みの草がちょうど目の高さにあった。植え込みには花が植えてあるわけではなく、ぼうぼうと草が生い茂っている。その中に昔よく遊んでいた草を見つけ、懐かしく思いながら一本引き抜いてみる。  しばらくその草を揺らして眺めていると、茂みから草を分ける音がした。何が出てくるのかと一瞬息を殺したが、それは何てことのない一匹の猫だった。茂みの間から顔だけのぞかせて、こちらの様子をうかがっている。  そして猫がじっと見ているのは自分が手に持っている草だと気づき、そういえば猫はこれが好きらしいと思い出した。俗に猫じゃらしと呼ばれるその草を揺らすと、猫は目を細めて近づいてきた。  ゆっくりと猫が草をかき分けて姿を現す。その真っ黒な毛が、夕日をうけてつやつやとしている。猫じゃらしを揺らしながら後ろに引き、猫をこちらに誘導する。 「あ」思わず声を上げる。最後に出てきた尻尾だけが、夕日でオレンジ色に染まっている。真っ白な尻尾は、オレンジの光によって透き通るような輝きを見せていた。自然と笑みがこぼれる。 「幽霊なんかじゃない」 あの日の友人に勝ったような気がした。猫はこちらを見上げてすり寄ってくる。 「やっぱりおしゃれですね」 ここでも月並みな言葉しか出てこない。それでも心からの気持ちはこもっている。それが伝わったのか、「彼女」は嬉しそうに「にゃあ」と応えた。
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