第二話 雨女の夢

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 梅雨の長雨が続くある日。その日は母親が友達の結婚式に呼ばれていてお留守番の日だった。近所の小母さんが代わりに送迎バスの停留所まで迎えにきてくれて。それで家玄関口まで送ってくれた。家の鍵を預かって一人で過ごすのは誇らしい気がした。玄関に鍵がかかっている事を確認して、お母さんが用意してくれたシュークリームを食べながら、リビングで窓の外を見る。 「あめさん、きらいじゃないよ。みんなどうしてきらうんだろうねぇ。バラもあじさいも、お花も草も、ぬれてとってもきれいなのに」  誰に言うとなしに、問いかけていた。 『ありがとう。そんな事言って貰ったの初めてよ』  不意に、後ろから濡れたように艶やかな、落ち着いた声が響いた。ドキッと心臓が飛び跳ねた。驚いて後ろを振り返る。 「あ、あの……」  そこには、やや灰色がかった淡い水色の着物に紺色の帯を身に着けた綺麗な女の人が立っていた。アーモンド型の瞳が濡れたように艶やかだ。髪も、濡れたようにしっとりと艶やかで、髪も目も、こっくりした黒だ。それを漆黒とか、烏の濡れ羽色、というのだともう少し大きくなって知った。髪は低い位置でアップスタイルにしている。肌の色が青みがかった白で透き通るみたいに綺麗だ。整った顔立ち、真っ赤な唇も、やはり濡れたように艶やかで、まるで夜露に塗れた椿の蕾みたいだった。あまりにも浮世離れした美女で、瞬間的に足を見てしまう。白い足袋を履いているようだ。足はついているらしい。 ……良かった、幽霊ではないみたい……  そんな事にホッとしている自分が不思議だった。けれどもその人はきっと、人間では無い。そう直観した。
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