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「あなたが雨女と呼ばれて虐められているのを空から見ていて。いたたまれなくなって来てしまいました」
その人はそういって寂しそうに微笑んだ。
「どうして?」
何となく、その女の人は好感が持てた。どうしてその時、深く考えずに信用してしまったのか。きっと、幼稚園児である私の事を見下したり、変に子供扱いしないところが気に入ったのだと思う。大人として扱って貰えることが訳もなく嬉しかった。それに、虐められているところを見ていたたまれなくなって、て言ってくれた。気遣ってくれたの事もとても嬉しかったのだ。
「私は雨女なのです」
「え? ほんとうの、ほんとうにあめおんなさん?」
「ええ、本当の、本当に雨女なのです」
濡れたように、匂い立つようにしっとりとした風情のその美女は、そう言われればそうかも、と納得させるような現実感の無さ。興味深々で女の人を見つめ、何を言い出すのかワクワクして待った。
「本当の雨女は、晴れの日を見たことがありません。風の精霊や雲さんにお話を聞くのみ。青い空も見た事がないのです。だから私は、あなたは雨女なのではない。正真正銘の人間の女の子なのですよ。そう伝えたくてやってきました」
雨女はそう言って、私のそばにスーッと浮くように近づくと、私の目線に合わせて腰を下ろした。まさに、浮くような、という表現が相応しい。例えるなら、動く歩道に乗ってゆっくりと歩いているような、そんな感じだ。そしてその人は、右手を伸ばし、私の頭を撫でた。
……ぬれた花のかおりがする……
その時はそう感じたが、その花の香がなんであったかは分からなかった。後にそれは、雨に濡れた藤の花の香に似ているのだと気付いた。その手がとても優しくて、やっぱり私は人間だったんだ、と再確認し、とても安心したことを今でも覚えている。
「翠、にんげんだよね。そうだよね」
雨女が、霞んで見えない。あ、泣いているんだ、そう思ったら、彼女はそのまま右手で私の肩を抱き寄せ胸に抱きしめてくれた。そして右手で優しく頭を撫でながら、
「あなたは晴れの日も、体験出来る。お日様が煌めく中、青空を見上げてキラキラの世界自由に歩ける。風の囁きや、小鳥や虫の歌声を聞ける。咲き誇る花々を味わえる」
まるで子守歌を歌うように囁いた。涙はどこから出てくるのかと思う程溢れた。
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