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涙もだいぶ落ち着いた頃、彼女の言った『晴れの日を体験した事がない』という言葉が気になった。
「ほんとうに、いちども太陽さんをあびたことないの?」
素朴な疑問を口にした。
「ええ。一度も。雨女だから、雨しか体験しないのですよ」
「おてんきあめも?」
「ええ。自然現象として人間の目に虹として映るのみで。私は次に雨を降らせる場所へと移動しますから。ですからお天気雨は私の足跡だと思ってくれだれば」
雨女の話は難しくてよくわからない部分はあったけれど、なんとなくの感覚で言おうとしている意味は伝わった。
……晴れた日を体験したことがないなんて……
気の毒に感じた。なんとかしてやれないかと思案して、ふと閃いた!
「じゃぁ、翠のからだをかしてあげるよ!」
それはとても良いアイデアだと思った。
「え……でも……」
雨女は困惑気味だ。
「いいからいいから。そのかわり、ぜったいからだをかえす、てやくそくしてね。そのままからだをのっとっちゃうわるいおばけがいるんだ、てこのまえアニメでみたんだ」
「……勿論、そんな非常識な事しません。でも、あなたはなだ子供だから体を貸すのはとても負担がかかります。ほんの30分ほど。本当にお借りして良いのですか?」
「うん。でもきょうはあめだね。はれた日……は、だめか。あめおんなさんだから出てこれないのか」
せっかく良いアイデアだと思ったのに、自分にがっかりだ。でも彼女は嬉しそうに笑っている。
「大丈夫です。あなたに体をお借りすれば、太陽さんにお願いしたら30分だけならきっと出てくれると思います。だって、体をお借りしている間、私は雨を降らす事は出来ませんから。必然的に晴れるんですよ」
難しくてよく分からなかったけれど、こうして私は雨女に体を貸す事になった。彼女は何度も何度もお礼を言ってくれて。とてもくすぐったい気分だった。どうやって借りるのだろう? 魔法の杖でも出すのかな。呪文を唱えるのかな……。ワクワクし待つ。
でも……
「30分だけ、お借りしますね」
と私の額と雨女の額を合わせただけだった。額はひんやりしてしっとりしていた。
『……あれ?』
「肉体だけお借りしました。あなたの意識はハッキリとあります。これから私と一緒に晴れの世界を満喫しましょう」
というと彼女は家を飛び出した。
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