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地声が大きい鬼塚さんのおかげで、空気を読める人たちは帰宅しようと動き始めました。鬼塚さんは参拝の人たちを見ながら、適度に境内に人を入れています。素晴らしい働きです。
来る人の中にも帰る人の中にも、夏祭りでの鬼塚さんを覚えている人たちが結構おり、「腕相撲の兄ちゃん」とか「ミニ四駆のおじちゃん」と声をかけられていました。そんな鬼塚さんは、声をかけてくれた一人一人に「今年の夏も楽しみにしてくれよな!」とか「商店街のミニ四駆屋にたまにいるぜ!」と、鬼なのに神対応をしています。
「小鬼のあのようなところは凄いのぅ……」
「はい……本当に見習わないといけませんね……」
こういう時に人間よりも人間らしい鬼塚さんを、毎度毎度見直してしまいます。
そして参拝客の人波は衰えないまま時刻は二時過ぎになりました。
「完売にゃ!」
「売り物でねぇ」
全てのそばを配ったらしく、歓喜の声を上げるちらんさんに赤さんがツッコミを入れています。
「……皆さん、何も手伝えなくてすみません……」
ただただ今までボーッとしていた私は謝りました。
「初詣に来たんだべ?なんもいぃんだ」
と赤さんは笑います。すると、ちりさんとつむぎさんがこちらに向かって来ました。
「百合にゃん、すごい着物を着ていますね……」
昔々、とある呉服屋さんで飼われていた猫が猫又になったのが、こちらのちりさんとつむぎさんです。だからか着物に詳しいらしく、上から下まで前も後ろもチェックされてしまいます。
「やっぱりすごいんですか……?萌さんやユキさんにいただいたんですが……」
「……あぁ……」
……何ですかその素っ気ない返事は?
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