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『あ〜おかしい。百合子には新年早々笑わせていただきましたよ。さぁ中で御神酒でも飲んで行ってください。私はまだここに居なければいけませんから』
そう言ったウカ様は本殿を指し示します。まだ参拝客はいますもんね。私とぬんさんが本殿へ進もうとすると、ウカ様に呼び止められました。
『そうだ、山田さんが限界が近いらしく、私の声が届かなくなっているんです。そろそろ交代で休むように言ってあげてください』
そう言うとウカ様はまた屋根の上に移動したようで、私たちの前からパッと姿を消しました。
私は驚きましたよ。もちろんウカ様が消えたことにではありません。あの山田さんを気遣ったことにですよ!これはもう正月の奇跡ですよね!
履物を脱いで本殿へと上がると、新年というめでたい日に相応しくない、今にも死にそうな顔をした山田さんが「御神酒をどうぞ……」とロボットのように繰り返しています。目の前にいるのが私とぬんさんだということも気付かないくらい、どこか遠くを見ています。
「……山田さん?」
「新年……明けましておめでとうございます……」
声をかけても会話が成り立ちません。
「山田ぁ!しっかりせんか!!」
そんな山田さんにイラッとしたのか、いきなりぬんさんが怒鳴りました。私も山田さんもビクッとなります。
「はっ!桃田さん!?……ぬんさん……」
どうやら怒鳴られて意識を取り戻したようですが、ぬんさんを認識した途端にげんなりとしています。そんな山田さんを見てぬんさんはまたイラッとしているようです。
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