第三回優勢遺伝子選抜試験

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第三回優勢遺伝子選抜試験

逃れられぬ時代の波は確実に僕の運命を飲み込み、 15歳になった僕は(つい)にその日を迎えていた。 第三回優勢遺伝子選抜試験。 通称劣化遺伝子淘汰試験と呼ばれる地獄の試験日を。 かけるのは自分の未来。 自分の存在。 自分の命。 そして僕は電脳仮想世界で目覚めた。 試験会場はコンピューター上に造られた仮想の箱庭 アバロン。 バーチャルリアリティーの世界。 箱庭には色とりどりの幻想の花が咲き誇り、 甘酸っぱいレモンの香りで庭園を満たしていた。 頬を撫でる冷たい風。 クリスタルの(よう)な草花。 実際の自分は機械に繋がれ眠っている筈なのだが、 ここでは全ての感覚が現実世界と変わらずあった。 僕の回りには同じように空中庭園の中で目覚めた、 学生達が夢遊病患者の様に(たたず)んでいた。 その夢の理想郷(パラダイス)の中でい並ぶ学生達の顔は 一応に引きつり、その情景を楽しむ者の姿はない。 楽観的に楽しむ人間がいたとすればその者はもう、 精神を病んでいる。 これから始まるのは増えすぎた人類淘汰(とうた)の為の 殺しあいなのだから。 その時僕の足元に何かが転がって来てぶつかった。 メロンの皮の表皮に浮き出た血管の様な丸い(かご)が、 丸い蔓籠(つるかご)に覆われた不気味な実が、 風に運ばれ地面を(むな)しく転がっていた。 その中で桃色の綿菓子が浮遊し、 タンポポの(よう)に何かの種子を放出していた。 (かご)の合間から溢れだす光る砂粒の粒子。 まるで気泡の様に舞い上がっていくその胞子を 何気なく目で追うと、雲に覆われた濃霧の空に、 その胞子は綿雪の様に溶けて消えていった。 その濃霧の雲に手形の様に無数の影が浮いていた。 無軌道に浮遊する無数の何か? 徐々に濃霧が薄れるとその浮遊する何かは、 廃棄(はいき)された(よう)無造作(むぞうさ)に浮遊する無数の人の (しかばね)だとわかった。 それが何かのオブジェの様に浮遊していた。 恐らくは前の試験で失格し命を落とした先輩達の (むくろ)なのだろう。 幻想的な空中庭園が、夢の理想郷が、 その異様さをさらに引き立たせていた。 文字通りここでの失格は自分の存在の抹消を 意味するのだと再確認した。 (すなわ)ちは死を。 無機質に浮遊するオブジェの仲間入りをするのだとその無軌道に浮かぶ亡骸を見つめ思い知らされた。
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