王子

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「わたしは本当は英語も苦手だし、うまくあなたと会話もできません。なぜ私が選ばれたのか分かりませんが分不相応ということはわかります。なので、これっきりにしませんか? ご迷惑おかけしました」 私の家は上流階級ではない。これだけは断言できる。かと言って、生活に困窮するほど貧しくないことも自負している。 私の母親は現在通訳をしている。しかし以前は違った。私がまだ小さかった頃、一度だけ聞いたことがある。「前は王宮で働いていたこともあったのよ」と。 その言葉は私が二十歳になってから久々に思い出されることとなるとは。 縁談がきた。しかもどこぞの王子という。 嘘でしょ。縁もゆかりも無いこんな一般人のもとへなぜ? これは詐欺だ。うける。 よくよく話を聞けば、これはカモフラージュなんだと。それなら納得だ。 しかし何のためのカモフラージュなのか? そこは詳しく聞かされていない。なんてご都合主義。 というわけで最初の文言に戻る。 あれよこれよと言う間に、話は進んでいく。私の意見なんて完全に無視だ。 王子はフィリップ王子という。フィリップ王子とは、何度か電話で話したことがある。とりあえず楽しそうに話せ。これが私に与えられたミッションである。
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