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「突然死です。何度も平気だったと言っても、また戻ったとき以前のように平気なままという保証はありません」
意味がわからないと彼は罵る。
「タイムマシンを使ったのは、あなただけだと思いますか? 何人が、いえ、何十人、何百人、何千人……はたまたそれ以上の人たちが使ったとして……使う度にわずかでも変化が起きたら。何度も平気だった、それこそが偶然だったのかもしれません」
あたかも見てきたかのように私は堂々と言う。はったりが効いたのか、彼は黙った。
「それに、です。あなたは何度も、そう、何度も何度も戻りました。このタイムマシンを使って。タイムマシンは一度の使用に余命を一年頂きます。あなたは、何年の余命を使いましたか? あなたの余命は、あとどのくらいあると思いますか?」
彼の顔がハッとし、青ざめていく。
ギャンブルと同じ感覚だったのだろう。もっと、もっといい結果を、望む結果をと夢中になって、大事なことを見失ってしまう。
「あなたの人生です。戻ることを無理に止めることは致しません。ですが、どうか有意義な余生を過ごして下さい」
私は奥へと下がろうとした。そのとき、
「まだ、使うことはできますか?」
彼はバカなことを言ってきた。
「はい。ただ、最後の一回になりますよ?」
医師でもないのに、私は余命宣告をする。彼にとっては重い一言だったはずだ。
彼は、彼女と同じような行動をした。
声を飲みこんで、真剣な眼差しで私を見た。
「どうしても、彼女のいる……彼女といる時間に戻りたいんです」
彼女がいなくては自分の時間など意味がない──震える声を押し殺し、彼は言った。
「かしこまりました」
私は再び奥へ戻り、変声器をつける。
「ソレデハ、目ヲツブッテ戻リタイトキノコトヲ思イ出シテ下サイ」
そうして、彼は過去へと戻った。
彼は、あと一年と生きないだろう。
彼自身、私の言葉でそれを悟ったはずだ。
私はひとつ、訂正しなければならない。
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