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【T-3】 戻す
彼女が死んでしまった。交通事故だった。
結婚前の婚前旅行。──楽しい思い出になるはずだった。
幸せな毎日が始まるはずだった。彼女のきれいなウエディング姿を見て、慌ただしく引っ越しをして、一息ついて、それから、なにげない日常を積み重ねていくと思っていた。けれど、もう──あの大好きな笑顔も声も届かない。
二年が過ぎても、心は晴れなかった。後悔が募るばかりだ。あのとき、彼女の気遣いに合わせて運転を変わらなければ、俺が運転を続けていたら、きっと今ごろは。
会社と家を往復するだけの毎日に嫌気がさしていた。
どうにでもなれ。
******
行くあてもなく新幹線に乗り、見知らぬ地にいた。ふらふらと歩き、海に身を沈めようかと思い浮かぶ。思考は、彼女を求めている。彼女の元へと行きたい。
ふと、妙な看板が目についた。
『あなたの願いを叶えます』
願い──俺の願いは、彼女だけだ。叶うわけがない。
そう思いつつも、足はひとりでに動いていた。
******
「イラッシャイマセ」
機械の声がする。
「オ望ミノ時間ヘオ連レシマス。タダシ、代償ハ貴方ノ余命、一年デス。ソレデモ、貴方ハ過去ニ戻リタイト願イマスカ?」
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