【T-3】 戻す

1/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

【T-3】 戻す

 彼女が死んでしまった。交通事故だった。  結婚前の婚前旅行。──楽しい思い出になるはずだった。  幸せな毎日が始まるはずだった。彼女のきれいなウエディング姿を見て、慌ただしく引っ越しをして、一息ついて、それから、なにげない日常を積み重ねていくと思っていた。けれど、もう──あの大好きな笑顔も声も届かない。  二年が過ぎても、心は晴れなかった。後悔が募るばかりだ。あのとき、彼女の気遣いに合わせて運転を変わらなければ、俺が運転を続けていたら、きっと今ごろは。  会社と家を往復するだけの毎日に嫌気がさしていた。  どうにでもなれ。  ******  行くあてもなく新幹線に乗り、見知らぬ地にいた。ふらふらと歩き、海に身を沈めようかと思い浮かぶ。思考は、彼女を求めている。彼女の元へと行きたい。  ふと、妙な看板が目についた。 『あなたの願いを叶えます』  願い──俺の願いは、彼女だけだ。叶うわけがない。  そう思いつつも、足はひとりでに動いていた。  ****** 「イラッシャイマセ」  機械の声がする。 「オ望ミノ時間ヘオ連レシマス。タダシ、代償ハ貴方ノ余命、一年デス。ソレデモ、貴方ハ過去ニ戻リタイト願イマスカ?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!