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【T-4】 戻れない
クレームがきた。
彼女が突然死んでしまったと。
困った。
正直に言ってしまえば、ルールに違反する。
彼女は、彼を生かす道をつかもうと、同じところに戻りすぎた。
「戻ると、あなたの余命はわずかになってしまいます」
わざわざ変声器を外して姿を現したというのに、
「構いません!」
と、彼女は聞かなかった。
「これで……戻るのは最後になりますよ? 覚悟はありますか」
何度も何度も同じ場所に戻って行った彼女だ。二度と戻れないという忠告は効いたのだろう。一瞬、彼女は声を飲みこんだ。それでも──。
「わかりました。これで最後でもいいんです。お願いします」
違う未来を選びたいからタイムマシンの使用を望んだのだろうに、それで未来の時間がなくなるなんて、本末転倒ではないのか。
しかし、私はそれを言わなかった。
「かしこまりました」
私は再び奥へ戻ると、変声器をつける。
「ソレデハ、目ヲツブッテ戻リタイトキノコトヲ思イ出シテ下サイ」
そうして、彼女は戻って行った。
彼の余命も長くはない。
二人とも戻り過ぎた。
「そうでしたか。突然死はどうしようもありません」
変声器を外し、彼の前に出る。
彼の目は見開かれたが、私の姿に驚いたわけではない。怒り、彼を表す言葉はそれが相当だろう。
なんでだ、納得できない──それを繰り返す。
「何度戻っても、彼女は生きていたはずだ!」
なのに、突然死など納得できないと。──言いたいことはわかる。
彼には言えないが、同じところにまた戻ったところで、彼女の余命は尽きている。なんとか、ごまかして逃げ切らなくては。
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