きさらぎ行きの電車に乗って⑥

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きさらぎ行きの電車に乗って⑥

由紀はいい気味だと思った。 電車の中、化粧直しをしていると、その男は迷惑だと言ったのだ。 化粧の匂いが、電車中に蔓延して気分が悪くなる。 由紀は、そう注意されて、かっとなった。 いったい、この化粧品がいくらすると思っているの? この化粧品の価値も知らないくせに。すごくいい匂いなのに、臭いだなんて。 「はぁ?おじさん、ちょっと神経が過敏なんじゃないの?」 そう反論すると、その男はニヤニヤしながらこう言い放ったのだ。 「君におじさん扱いされる謂れはないけどね。」 その男は、由紀を値踏みするように、上から下まで見下ろしたのだ。 「それにね、君の前に、赤ちゃんを抱いたお母さんが立ってるってのに。席を代わってあげたらどうなの?」 周りは、そのおっさんに賛同するような視線を由紀に送った。 由紀は、怒りで唇を震わせた。由紀はコンパクトを乱暴にバッグに放り込むと、子連れの女性に仕方なく席を譲った。女性は、すみませんと申し訳なさそうに、赤子を抱いて席に座る。 悔しかった。  何よ、あんたなんか。そんなに幸せそうなのに、さらに周りの同情を得て、いい気なものね。     
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