3人が本棚に入れています
本棚に追加
きさらぎ行きの電車に乗って⑥
由紀はいい気味だと思った。
電車の中、化粧直しをしていると、その男は迷惑だと言ったのだ。
化粧の匂いが、電車中に蔓延して気分が悪くなる。
由紀は、そう注意されて、かっとなった。
いったい、この化粧品がいくらすると思っているの?
この化粧品の価値も知らないくせに。すごくいい匂いなのに、臭いだなんて。
「はぁ?おじさん、ちょっと神経が過敏なんじゃないの?」
そう反論すると、その男はニヤニヤしながらこう言い放ったのだ。
「君におじさん扱いされる謂れはないけどね。」
その男は、由紀を値踏みするように、上から下まで見下ろしたのだ。
「それにね、君の前に、赤ちゃんを抱いたお母さんが立ってるってのに。席を代わってあげたらどうなの?」
周りは、そのおっさんに賛同するような視線を由紀に送った。
由紀は、怒りで唇を震わせた。由紀はコンパクトを乱暴にバッグに放り込むと、子連れの女性に仕方なく席を譲った。女性は、すみませんと申し訳なさそうに、赤子を抱いて席に座る。
悔しかった。
何よ、あんたなんか。そんなに幸せそうなのに、さらに周りの同情を得て、いい気なものね。
最初のコメントを投稿しよう!