ネガイカナエタマエ

1/1
前へ
/1ページ
次へ

ネガイカナエタマエ

 恋をしている。  片思いだけど。  隣のクラスの滝沢くん。  頭脳明晰のスポーツマンで爽やか系。誰もが認める超イケメン。私なんかお呼びじゃないって事くらい分かってはいるけれど、溢れる気持ちが止まらない。 「神様、一生のお願いです。滝沢くんが、私の事を好きになってくれますように」  今夜も部屋の窓から、夜空の星に願いをかける。すると 「了解致しました」  声がした方を振り返ると、そこには、見知らぬスーツ姿の男性が立っている。 「だ、誰!?」 「貴女が毎晩、願いを捧げている方の使いの者です。おめでとうございます。本日の当選者は貴女です。叶えて差し上げられますよ。貴女の『一生のお願い』を」 「ほ、本当?」  男性はタブレットの様なものを取り出すと、ピピピと何かを入力する。 「はい。これで該当者・滝沢涼介様は、寝ても醒めても貴女に夢中です」 「すごい。夢みたい。じゃあこれで、明日から滝沢くんと恋人みたいに学校で過ごせるのね?」 「は? 明日?」 「だって、滝沢くんと私は両思いになれたって事でしょう?」 「そうですが……」  男性は小さくひとつ咳払いをする。 「願いを叶えた代償に、貴女の命は頂いていきますよ?」 「……え?」 「貴女、言ったでしょう?『一生のお願い』と。願いは叶えました。ですから、頂戴させていただきます。貴女の、残りの人生を」  男性が片手を上げ、パチンと指を鳴らした。  と同時に、私の心臓もパチンと音を立て、視界が暗転した。 「信じらんない。亜沙美が死んじゃっただなんて」 「心臓発作だったんだって。あんなに元気だったのに……」 「滝沢くん、狂ったように泣いていたね」 「ずっと好きだったらしいよ、亜沙美のこと」 「悲劇だね」 「神も仏もないのかね」  遠くから、亜沙美の葬儀の様子を眺めていたスーツの男が呟いた。 「……神は、いますけどね」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加