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「…………っ!!」
人間、本当に得体の知れないモノに遭遇すると悲鳴なんか出やしない。
「はぅ……っ! ぁ、あ、はぁ……っ!」
そして呼吸が出来なくなる。
(なんだコレ……! 重い……、頭も、割れる……ッ!)
真っ暗な部屋の中、僕に圧し掛かる闇よりも暗い大きな影。そして針で脳を刺すような大音響の耳鳴りがする。
何がなんだかわからない。理解ができない。
ただ心臓がバクバクと波打って、耳鳴りが身体中を斬り裂いて、自分の叫び声が僕の中で爆発する。
(ああ……っ、あ、あああぁぁっ!)
影から触手のようなモノが伸び、僕の口や耳、鼻の穴にヌルリと入り込んできた…………、
その時だった。
「──青、白、朱、玄、勾、帝、文、三、玉……破邪!」
突然、目前の影に四縦五横の亀裂が入り、弾け飛んだ。そして散った影の向こうに見えたのは。
「……間に合ったようだな。今の病邪は、隙あらば人の肉体を腐食させようと近づく異端の霊。だがもう大事ないぞ」
(だ、れ……?)
細面の顔に銀色の長髪がサラリとかかり、この寒いのに薄手の白い着物一枚といういでたちの……美青年。
「……ぷはっ! はあ、はあ……っ、うう……!」
途端に酸素が胸の中に雪崩れ込んできて、僕はむせ返ってしまった。
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