【第一章】姫人形は笑わない

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「…………っ!!」  人間、本当に得体の知れないモノに遭遇すると悲鳴なんか出やしない。 「はぅ……っ! ぁ、あ、はぁ……っ!」  そして呼吸が出来なくなる。 (なんだコレ……! 重い……、頭も、割れる……ッ!)  真っ暗な部屋の中、僕に圧し掛かる闇よりも暗い大きな影。そして針で脳を刺すような大音響の耳鳴りがする。  何がなんだかわからない。理解ができない。  ただ心臓がバクバクと波打って、耳鳴りが身体中を斬り裂いて、自分の叫び声が僕の中で爆発する。 (ああ……っ、あ、あああぁぁっ!)  影から触手のようなモノが伸び、僕の口や耳、鼻の穴にヌルリと入り込んできた…………、  その時だった。 「──青、白、朱、玄、勾、帝、文、三、玉……破邪!」  突然、目前の影に四縦五横の亀裂が入り、弾け飛んだ。そして散った影の向こうに見えたのは。 「……間に合ったようだな。今の病邪は、隙あらば人の肉体を腐食させようと近づく異端の霊。だがもう大事ないぞ」 (だ、れ……?)  細面の顔に銀色の長髪がサラリとかかり、この寒いのに薄手の白い着物一枚といういでたちの……美青年。 「……ぷはっ! はあ、はあ……っ、うう……!」  途端に酸素が胸の中に雪崩れ込んできて、僕はむせ返ってしまった。
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