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「これは……!」
「白楼に決まっておろう。今では四尾の天弧となり、普段はほとんど狐の姿には戻らぬ」
「……やっぱりあの昔話は本当にあった事なんだ……。君を生贄にして雨を降らせたって……」
白い天狐に乗って、僕は夜を駆ける。
目の前にはフィクションだとばかり思っていた悲劇の姫が、まだ僕を睨みつけている。
「あ、あの雅姫。白楼さまはどこに向かってるの?」
「結界が脆くなっている箇所を探しておる。そなたら神社の跡継ぎを病に堕とし、存続を断ち切ろうとする邪は多い。ゆえに以前からここに結界を張っ……」
雅姫が言葉を切り、前方の闇に目を凝らす。
「白楼、あれじゃ! 裏林の小さき鳥居に、邪鬼どもが鈴なりになっておる!」
『……なるほど、あそこか。先だっての地震のせいやもしれぬな。地と大気にわずかな歪みを感じる』
耳ではなく、胸に直接響く白楼の低い声。
彼女が指差す方向を見やると、確かに裏の林でポツンと佇む鳥居の外に、黒い靄のようなものがいくつもひしめいている。
「あ! 雅姫、今ひとつ鳥居から中に入った!」
「そなたにも見えたか神之介。白楼、疾く! わらわが先に参る!」
そう言い置いて、雅姫が白楼の背中から飛び降りた。
「なっ……!?」
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