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ひとつ違いの神楽姉ぇは、弟の僕にかなり手厳しい。
でも細やかな部分が無いわけではなく、こうしてこの人形の汚れを落としたり、椿油をしみ込ませた櫛で髪をとかしたりといった手入れをよくしている。
「で、でもさ、その人形……。昔、妖怪のキツネに雨を降らせてもらう代わりに生贄にされたお姫様なんだろ? 怖いじゃんか……」
「はあ? 神之介あんた、この雅姫の事そんな風に思ってたの?」
呆れたように声を荒げて、神楽姉ぇは目を吊り上げた。
「雅姫はね、自分から村の為に身を差し出したのよ。それに白楼さまはれっきとした善狐。妖怪呼ばわりするなんて信じらんない!」
そう鼻息も荒く説明してくれたのは……。
──かつてこの地域一帯は日照りが続き、深刻な干ばつと飢饉によって多くの村人の命が奪われたという。
そんな中、領主の所に一匹の白い狐が現れてこう言った。
『我が名は白楼、氏神よりこの地を預かりし妖狐なり。貴公の娘子である雅姫の髪をもらい受けたし。さすれば雨を降らせること叶わん』
闇夜にぼんやりと浮かび上がる白銀の狐。その尾は二つに分かれ、ゆらゆらと波打っている。
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