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『わ、私どもの雅姫を……? しかも髪とは。それでこの地に恵の雨を降らせて頂けるのでしょうか』
『雨を呼ぶ業、まこと難儀なり。未だ二尾の妖狐に過ぎない我では、口惜しいかな妖力が足りぬ。だが雅の髪があれば……』
ついと鼻先を上げ、白楼は雅姫の居るであろう対の屋に視線を流した。
『雅は、妖力で働きかけずとも我の姿を捉える。それすなわち、人の身でありながら魂に神性を含む証。その者の髪でも爪でも一部を取り込めば、それは我の力と成る』
髪で済むのならと領主も申し出を了承し、指定された日時に雅姫は切った自分の髪を用意して白楼を待ったのだが……。
「……神楽姉ぇ。そこまでは僕が知ってるのと同じだよ。で、結局お姫さまがさらわれて髪の毛が残ってたって。雨はちゃんと降ったみたいだけど、それって生贄とは違うの?」
雨を降らす為に、雅姫自身が供物になってしまったという結末。
これが神隠しなどの実話に近いものか、はたまた完全な作り話かはわからないけれど、かなりシュールで残酷な話だ。生きながら食われる恐怖を想像すると身の毛がよだつ。
それを模した人形なんて不気味としか思えない。
「もう、なんでそうなるのよ。雅姫は村の為に、自分から進んで白楼さまに食べられたの!」
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