一章 ~二人の便利屋~

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「……申し訳ない……あぁ、契約違反だってことは重々承知している……こちらが軽率だった……」  依頼人に電話中のチュグ。表面上は申し訳なさそうに謝罪しているが、彼の頭の中は違約金をどれだけ請求されるかで一杯だ。 「……ただ、一つ聞きたい……質問は受け付けない?……まぁ、それもそうなんだろうが……聞きたいのはアレの詳細じゃないんだ……アレは……生きてるのか、そうじゃないかだけだ」  見たところ、少女が入っている機器はコールドスリープの装置のようだが、万が一がある。少女がレシピエントであった場合、それが例え死体であったとしても高値で取引される。  ギフト研究所、通称『ラボ』でしかレシピエント、及びギフトの研究は認められておらず、一般人や民間企業はギフトの研究は許されていない。その為、研究に着手したい企業が裏社会の人間、主に便利屋に依頼しレシピエントの拉致、もしくは状態の良い死体の入手を依頼することがある。  チュグ達二人はそういった裏の仕事は引き受けない。二人の営む『便利屋ToDo(トゥドゥ)』の信条、企業理念は『 命あっての物種(無理しない)』 身の丈以上のリスクは負わないことにしている。しかし、少女を見てしまったことでその理念は脆くも崩れ去った。先ほどのカーチェイスもどこからか少女の情報を嗅ぎ付けた企業かマフィア、それ以上の力をもった組織である可能性が高く、これ以上少女の輸送に関われば最悪、目的地で少女を引き渡した瞬間に命が無いことも十分に考えられる。  見てしまったことをチュグと二世二人だけの秘密にし、何食わぬ顔で仕事を達成させることも可能だったが、もし少女が生きていた場合、その後どんな運命を辿るのかを二人は容易に想像できた。  実のところラボとは公には存在しない機関とされており、研究とは薬物投与に始まる拷問にも似た非人道的な実験。肉体を際限なく傷つけられ、精神を極限まで削られ、魂を永遠に抉られる。そんな地獄の更に下。  研究者の中にはレシピエントに大切な者を殺された者もいるかもしれない。そんな人間の研究という大義名分の下の復讐の的にされる。そんな運命。  それがわかっているからこそ、二人は依頼人にあえて連絡し、確認することにした。
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