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空の上
ふと気がついてみると、僕は空の上にいた。下を見おろすと、僕の車を探す捜索隊が堤防にいる。犬走りへ落ちた奴の車は、レッカーで引き揚げられている。奴はタンカで救急車に乗せられ、そのまま病院へ直行した。奴の車は、実況検分が終わると自動車修理工場へ運ばれた。残ったのは僕の車のことである。僕はその車の中で閉じ込められている。
「僕は死んだから、ここにいるのかなぁ」と自嘲しながらそれを見た後、他の方へ気を紛らわせた。
僕は誰かと会わないかなぁと前へ進んだ。それは、歩くというよりは雲の上を漂うと言った方がいい。これまでも雲の中や上は登山や飛行機の搭乗で行ったことはある。
しかし、生身の人間が雲の上に行くとなると重装備がいるはずだが、今の僕の格好はさっきまで運転席でハンドルを握っていたのと同じである。
これから僕はどうなるのだろうと思いながら更に進んでいった。ここが天国と呼ばれる所なのかわからないが、誰とも会わない。会うとすれば、遠くでフライトをする飛行機ぐらいだろうか。同じ高度だから会えないこともないが、機内の乗員・乗客が僕を見たら驚くから飛行機の外壁まで近づくのはやめておいた。
気流に乗ってふわふわ浮いてる僕は、地上の方を見た。海や陸の上からは、大都市も砂漠も見える。同じ日で大都市を颯爽と歩くニューヨーカーも広い原っぱでのんびり草を食む肉牛も観察できる。ある時は、自爆テロの現場を目の当たりにすることもある。
物騒な世の中になったものだと思いながら地球を何周もした僕は、地上に降り立つことを考えた。しかし、これまであまり世の中を見てこなかった僕は、世界のことには疎い。
どこがいいのかわからないので、とりあえずもう少し漂うことにした。その時、僕は思いついた。
「地面の上ばかりではなく、もっと上の世界も見られないわけがないとはいえないだろう。ついでにオーロラでも見てやればいいのだ」
そう考えると、空が暗くなるまで上へ昇った。ついに真っ暗になると宇宙ステーションが飛ぶのが見えるようになった。これも近づくのをやめた。
僕は、青く見える地球を見下ろしながら周遊することにした。
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