金の王子か、銀の王子か

5/88
前へ
/393ページ
次へ
「……で、お前はどっちを選んだんだ?」 と尊は前を見たまま、訊いてくる。 「いえ、だって、選ぶもなにも。  私、王子、落としてませんから」 「夢の中では冷静だな」  夢の中ではって、なんだろうな、と思ったが。  式場から自分を略奪した尊について此処まで来ている時点で、あまり、冷静ではなかったかもな、と思う。  しかも、さっき、本物の新郎、征に会ったのに。  結局、自分は、また、尊と居る。  一度、実家にも帰ったのに、出てきているし。  もはや、なんの言い訳もできないな、と鈴は思っていた。  私はもう、『式場から略奪された花嫁』ではなく、自分の足で、『政略結婚から逃げてきた花嫁』だ。  ずん、と罪が重くなった気がしたが、何故だか、戻る気にはなれなかった。  ずっとこうして、逃亡の旅を続けられはしないこと、わかっているのに――。
/393ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4212人が本棚に入れています
本棚に追加