金の王子か、銀の王子か

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「お前、今、何処に居るかわかってるか?」 と問われ、鈴は、  日本、と思ってしまう。  そのくらいざっくりとしか地理を認識していなかった。 「伊勢といえば、伊勢には七度行けって言うんでしたっけ?」 「そのくらい信心深くあれってことだろ?」 と尊が言うのを聞きながら、鈴は思っていた。  七度か。  今回、伊勢に行けたとしても、この人と七回も一緒に行くことはできなさそうだな、と。  ……帰るべきなのかな? 征さんのところに。  もはや、何故、逃げているのか、意味もわからなくなってきているし。  私がおとなしく帰れば、この人も、なにごともなかったかのように博多に赴任できるはず。  そんなことを考えながら公園を一周したとき、尊が言ってきた。 「よし、行くぞ、鈴」 「あっ、はいっ」  ……反射的に返事してしまった。  もう帰りますって言わないといけないのに。
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