金の王子か、銀の王子か

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 よし。  次、休憩したときには、言おう、と鈴は心に決める。  だが、駐車場に戻り、車のドアを開けながら、でもまた言ってしまいそうだ、と思っていた。  この人に、 『行くぞ、鈴』  って言われたら、はいって――。 「鈴」 とエンジンをかけながら、尊が呼びかけてくる。 「征のことだ。  どんな妨害をしてくるかわからないが。  頑張って、力を合わせて、九州にたどり着こう!」  そう言われ、此処でもやはり、 「はいっ」 と言ってしまう。  しかし、なんだかわからないが、もはや、九州にたどり着くこと自体が目的になっているな、と鈴は改めて思った。  そこにたどり着いたところで、きっと、なにがあるわけでもないのに――。  天竺も経典も、何処にもないのに、旅を続けている三蔵法師一行みたいだな、と鈴は思った。
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