金の王子か、銀の王子か

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 九州に行きたいんだが、今、たどり着きたくない。  いやいや。  じゃあ、言い出さなきゃいいんじゃん。  帰りますって、と思わなくもなかったのだが。  でも、それじゃ、尊さんが困るし、と思う。  それに、そろそろ尊さんは赴任先に行く準備をしないと。  いつまでも、私が振り回してるわけには――  と思ったところで、ようやく気づいた。  ……そういえば、誘拐されたんだったな、私。  尊と居ることがあまりに自然で忘れていたのだ。  工事現場のおじさんのように、首からさげたタオルを両手でつかんで、考え込んでいた鈴に尊が訊いてくる。 「なにがいい?」 「え?」
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