略奪されました

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 まあ、そんな理想通りの人が居るわけもないし。  特に好きな人が居るわけでなし。  だから――  これでいいんだろうな、と鈴は笑いもしない夫を見つめる。  ……笑いもしないどころか、視線までそらされてしまいましたよ。  顔が整っているうえに表情もないので、出来すぎた蝋人形にしか見えない夫を見、ふう、と思わず、溜息をついてしまった鈴に、父親が目で合図してくる。  この莫迦がっ。  私の立場を考えろっ、という顔をしていた。  いいじゃないですか、別に。  何年も経ったら、そんなこともあったなーって笑い話になりますよ、と思いながら、なんとなく教会の扉に目を向けた。  ……誰かが連れて逃げてくれるとかあるわけないしな~。  そんな当てもないし。  そう鈴が思ったとき、いきなり、扉が音を立てて、大きく開いた。  外は明るく、シルエットしか見えないのだが。  黒のスーツがかっちりと似合う、日本人離れしたスタイルの男がそこに居た。  誰か遅れてきたのかな? と思ったのだが、男は大股に近づいてくると、いきなり鈴の手首をつかんできた。
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