魔法使いの涙

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「いつから降らなくなったんだろうね……。そのくらい、遠い昔の話さ」  オババは澄みきった青い空を見上げ、僕に話してくれた。滅多に降らない【雨】の話を。 「あたしがアンタくらいだった頃の話だ」 「へー、オババにもそんな時期があったのか」 「失礼な子だね! あたしゃ、これでも若い時は何人もの男を虜にしてきたんだ」 「……物好きが多かったんだね」 「ふん! 続き、話すのやめてもいいんだよ?」 「ごめん! 冗談言い過ぎた。オババ様、続きをお願いします」 「……しょうがないねぇ~」  そう言って笑うオババは健康そのもの。少し、心が軽くなった。オババの笑顔は、いつも僕を励ましてくれる。ありがとう、オババ。でも、照れくさいから本人には伝えない。 「アンタは、魔法使いを信じるかい?」 「魔法使い? 絵本や童話の話じゃないの?」 「はぁ……。アンタは父親に似ちまったみたいだね。あたしゃ、残念でならないよ。顔は母親似で整ってるのに。あんな堅物頭と同じ思考回路なんて」  オババは僕の父さん(つまりオババの息子)と、仲がよくない。これもいつからかは分からない。突然だった気がする。何か、原因があったのかもしれないけど、誰も深く追求しようとはしなかった。
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