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父さんが帰ってきてから、一つのテーブルを久々に四人で囲み、夕飯のトマト鍋を食べた。
面白いくらい、オババと父さんの好みは一緒で真っ白な細いキノコを競い合って食べていた。僕と母さんは、その光景がおかしくてお腹を抱えて笑った。
「久々にお腹いっぱい食べたよ。美味しかったー! ご馳走さま!」
「気に入って頂けて、よかったです!」
「アンタが作る料理は美味しいからね。この子が太るのも無理はないよ」
「……本当、一言多い人だ」ムスッとする父さん。でも、どこか嬉しそう。
「そういえば、父さんは【雨】を見たことある?」
「縁起でもないことを言うな!!」
何で父さんが怒ったのか、この時の僕は知らなかった。
「こら! 子供を怒鳴るんじゃない!! 【雨】の話をしたのは、あたしだよ」
「何で、そんな不吉な!!」
「バカだねー。誰かが教えなきゃいけないことだろう。アンタは、自分のお父ちゃんから教わったじゃないか。それを今度はあたしが教えたっていうだけだ」
「だからって、何もこんな時期に……」
オババの声に力が籠る。耳の奥にすっと入ってくるような強く芯のある声で、話し続けた。
「こんな時期だからさ。忘れないでいてほしいんだ。生きているもの、いつか終わりが来ることを。そうなった時、何を残せるのか……。あたしには、これしか残せないから」
「……母さん」
いつも強気な父さんが子供に見えた。オババの前では、父さんも【子供】なんだ。
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