魔法使いの涙

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── ポツポツ……  灰色の雲が空を覆い、無数の滴たちが渇れた地を目指し、天から落ちてくる。これが、オババの言っていた【雨】……。  でも、教えてくれたオババはここにいない。降り注ぐ、この【雨】になってしまったから。僕らの住む世界では、滅多に雨は降らない。雨が降るとき、それは誰かがこの世を去ったとき。  全身で雨を浴びながら、僕は誓った。 「僕は忘れないよ。オババのこと、【雨】のこと」  悲しい色、やさしい色、ちょっぴり強めの色……。オババとの思い出は雨に溶け、無色透明の水滴を色とりどりに染め上げた。  降る滴に負けないくらい、僕の目からもオババに対する想いの雨が降りしきる。  オババは最期に「ありがとう。アンタに魔法使いのことを話せてよかったよ」と微笑んだ。  僕は願った。祈った。 魔法使いに会いたい、と……。  そうしなくちゃいけない、そう思ったから。
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