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「……あ」
雨の中、傘をさしている人がいた。七色に輝く美しい傘。オババの話では、『魔法使いは七色の傘をさしていた』と言っていた。
魔法使い……?
でも、僕以外の誰もその存在に気づいていない。見間違えだろうか? 涙で滲んだ目を何度も擦る。
見間違えじゃない。ハッキリ、そこに虹色の美しい傘が見える。
向こうも僕に気がついた。手を振るその人物に見覚えがあった。ド派手な真っ赤なワンピース……。
最期の夜。オババが見せてくれた写真に写っていた、若かりし頃のオババだった。
「オババ……オババッ!!」
悲しそうな笑みを浮かべ、オババは手を振り続けている。距離は、そう遠くない。だいたい50mほど。
「あ、あれ!?」
おかしい。見えてはいるのに、体が動かない。どれだけ足に力を入れようとも、びくともしない。まるで、地中深くまで根を張った大木のようだ。持ち上げることも難しい。
オババの口元が何か言っている。声はなく、口だけが動いている。大きく、ゆっくりと、僕に分かるようにオババは続ける。
「げ、ん、き、で、ね……あ、り、が、と、う……」
『元気でね。ありがとう』
今まで以上にオババは大きく手を振った。足は動かなくても手は動いた。僕も精一杯、手を動かした。
オババに負けないくらい、大きく、大きく、手を振り続けた。
「ありがとう! オババー!! 僕……今日のこと、忘れないから!! オババのことも、雨のことも。それから、魔法使いのことも!!」
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