笹川スズカ

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笹川スズカ

「みんなーッ、雨の中ありがとー!」  野外ステージの客席から大きな歓声が上がる。  (ささ)(がわ)スズカは、()(しや)()りの中に立つ観客を見て胸が熱くなった。  数年前は単独イベントをやっても、片手で数えられる人数しか集まらなかった。  こんな天気の日は、室内のイベントでも誰も来ないこともあった。  でも、目の前の客席は満員だ。  (かつ)()を着た観客がほとんどだが、中には、スズカの顔をプリントしたTシャツや自分たちで作った(はつ)()を見せたくて、ずぶ濡れになっているファンもいる。 「風邪引かないように気を付けてねー!」  まだ、始まったばかりなのに涙が(あふ)れそうだ。  いけない、泣くにしても、ライブの最後だ!  スズカは己を(しつ)()した。  彼女の本業は声優だが、歌手としても活動している。  今日は歌手として、初のライブツアー最終日だ。  最終日が野外ライブで大雨とは全くついていない、客席を見るまでそう思っていた。  観客にも雨の中、申し訳ないと。  しかし、客席を見てそんな思いはどこかへ行ってしまった。    雨なんて、わたしの(うた)で吹っ飛ばしてやる!  スズカは唄い続けた、今までになく精神が集中していた。  (のど)はとっくに限界のはずなのに、声は響き続けた。  観客の声援と、自分の声に酔っていた。  ファンと自分が一体となっているのを感じられた。  なのに、突然、その一体感が壊れた。  観客がざわめいている。  マシントラブルだろうか? モニターからは音が問題なく聞こえている。  スズカは気付いた、観客は自分ではなく、自分の右隣を観ていることに。  何か、嫌な感じがした。  しかし、確認せずにはいられなかった。  唄いながら、首を右に向けると、一人の少女が立っていた。  少女は悲しげに観客を見つめている。  え……?  次の瞬間、少女の姿は煙のように消えた。
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