撥ねられた男

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撥ねられた男

「――雑誌に載っているような、ゴージャスなマタニティ・クリニックで産むと、どれくらいの費用がかかるのかしら?」  心弾ませるように、紗夜(さや)が言った。  自宅からほど近い公立病院の産婦人科で、ついさっき、妊娠を告げられたばかりの帰路である。妊娠する心当たりもあり、その兆候もあり、今日、こうして自宅から一番近い総合病院に、夫婦で訪れていた晩秋。――といって、昨今の個人病院の自費診療費の高さが不安で、わざわざ公立の病院を選んだわけではない。最近は産科医の過酷な勤務事情から、個人の産院が減り、入院出産が出来る産科医院が減少しているために、ここが一番近かった、というのが、まず一番の理由である。     
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