星のアルカナ

2/4
前へ
/250ページ
次へ
 漫画や小説、映画の中ではよく耳にするが、そんな非現実的な言葉を誰が信じると言うのだろうか。小学生くらいまでならまだ信じたかも知れないが、郡司はすでに三十近い大人である。  だが――。  だが……そう。そんな言葉でも使わなければ、あの場で起こったことの説明はつかなかった。 「星のカードだっただろ? 十七番目のアルカナだ。【THE STAR】は思い描いた場所にテレポートできる(パワー)を持っている。パラサイコロジー――とか言うんだったか」  この男もずっとそのカードを追い続けて来た一人なのだろうか。あぶく銭を稼いで競馬につぎ込むような風来坊には見えても、人殺しをしてまでカードを奪おうとするような(たぐい)には見えない。第一――。 「どうしてそんなことを知っているんだ? 何故こんなものが存在する? これは軍や国家単位の組織が絡む何かなのか?」  郡司の言葉に、 「さあな。そんなことはオレには関係ない。――それより、あんたの嫁さんが家にいなけりゃ、他の行先は心当たりがあるんだろうな? いつまでも付き合わされてるわけにはいかないんだぜ」  仏頂面で、男は言った。  袖口の汚れたジャンパーと、膝の抜けただらしのないボトムが、この男の日々の暮しを物語っている。  ――家にいなかったら……。  あの後、紗夜に電話をしてみたが、留守電になるだけで繋がらなかった。     
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加