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漫画や小説、映画の中ではよく耳にするが、そんな非現実的な言葉を誰が信じると言うのだろうか。小学生くらいまでならまだ信じたかも知れないが、郡司はすでに三十近い大人である。
だが――。
だが……そう。そんな言葉でも使わなければ、あの場で起こったことの説明はつかなかった。
「星のカードだっただろ? 十七番目のアルカナだ。【THE STAR】は思い描いた場所にテレポートできる力を持っている。パラサイコロジー――とか言うんだったか」
この男もずっとそのカードを追い続けて来た一人なのだろうか。あぶく銭を稼いで競馬につぎ込むような風来坊には見えても、人殺しをしてまでカードを奪おうとするような類には見えない。第一――。
「どうしてそんなことを知っているんだ? 何故こんなものが存在する? これは軍や国家単位の組織が絡む何かなのか?」
郡司の言葉に、
「さあな。そんなことはオレには関係ない。――それより、あんたの嫁さんが家にいなけりゃ、他の行先は心当たりがあるんだろうな? いつまでも付き合わされてるわけにはいかないんだぜ」
仏頂面で、男は言った。
袖口の汚れたジャンパーと、膝の抜けただらしのないボトムが、この男の日々の暮しを物語っている。
――家にいなかったら……。
あの後、紗夜に電話をしてみたが、留守電になるだけで繋がらなかった。
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