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消えた妻
車に撥ねられた男の意識はなく、今は郡司の指示で歩道に運ばれ、だらりと弛緩した様子で横たわっていた。
郡司も医者ではあるが、診るのは死んだ人間に限られている。生死の確認くらいはできるが、治療や応急処置は専門外だ。――無論、この男の場合、すでに郡司の専門分野である死体に限りなく近い状態ではあるが……。バイタルを確認し、それくらいのことは見て取れた。それでも、一縷の望みをかけて、心臓マッサージと人工呼吸を試みる。
すぐそこにある総合病院へ運ぼうかとも思ったが、運んでも受け入れが出来ないようでは仕方がないので、ここは救急隊に搬送先を手配してもらうのが一番だろう。
何より、郡司の仕事は死体を検死し、解剖してその死因を突き止めることである。人の命を救うのは得意ではない。
そして、職業病かも知れないが、ついつい、目の前でぐったりとする男の様子を観察しても、いた。
男は汗を掻いている。夏でもなければ掻かないような大量の汗だ。額も首筋も、心臓マッサージを続ける衣服を通して、その熱と湿りが伝わってくる。何か運動をしているところだったのか、走っていたのか。
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