消えた妻

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 辺りを見渡し、何度も紗夜がいないことを確認する。  携帯を取り出し、かけてみたが、留守番電話に切り替わるだけ。それは、何度かけ直しても同じだった。  そして、周囲の人々は、去って行く救急車と事故現場だけを興味深げに覗き込み、暑くもないのに汗を掻いている郡司の方など見向きもしない。 「何がどうなっているんだ……?」  呟いた時、郡司は、消える瞬間の紗夜の手から、何かがひらりと舞い落ちるのを見ていたことを思い出した。――いや、注意して見ていたわけではないが、職業病のように、何かにつけて細かなことを見て、写真のように、ビデオのように思い返すことがクセになっているのかも知れない。
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