小雨降るバス停で

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□□□□□□□□ 「あら、どこか行くの? 待って、準備するわ」 「大丈夫よ、1人で動けるようになりたいの。遠くには行かないわ」 見えなくなってから過保護になり、1人にしてくれない。付きっきりでは私がダメになってしまう。 「そう? 気をつけてね。小雨だけど傘忘れないでね? 」 無理強いしないでくれることだけは有難かった。 玄関で、傘とステッキを渡してくれる。 「ありがとう、行ってきます」 笑顔で開けてくれたドアを出て、傘をさした。 向かうは人気のない古いバス停留所。 懐かしい匂いのする木造待合所。 3人か4人が掛けられる程度の木のベンチがあって。 きっと時刻表なんてとうに読めなくなっている。 子どものころ、近所のお兄さんお姉さんに遊んでもらった場所。 バスに乗るつもりもないのに来たくなった。 ベンチの下、裏角、よく隠れたっけ。すぐに見つかっちゃったけど。 映らない瞳で前を向き、その頃の自分を思い出す。 1番純粋で、楽しかった思い出。 こんなことがなければ、思い出すことも忘れていたままだったかもしれない。 晴れの日も雨の日も関係なく遊んだあの日々。 雨音が好きだった頃。 静かで人の気配など感じなかった。 「わっ! 」 ドンっとぶつかり、男性の声で気がつく。人が立っていたのだと。 知らない匂いと見えない弊害に慌てる。勢いで、ステッキと傘を手放してしまった。 雨が直接肌に降り掛かる。が、男性が自分より大きいのか、あまり当たらない。 「す、すみません! 大丈夫ですか?! 」 瞬間肩を掴まれ、ハッとする。 「あ、ごめんなさい。気が付かなくて……」 大きな手、優しそうな声。私は返事と共に声のする方へ顔を向けた。 「あの、申し訳ないですが、ステッキと傘を拾って頂けませんか? 私、見えないんです」 近くなのだろうが、雨の中闇雲に探すわけに行かず、願い出た。 「こっちが傘で、こっちがステッキです」 「ありがとうございます」 すぐに対応して、手にしっかりと持たせてくれた。 優しい人……。笑顔で返しながら私は、その優しさの中に何かを感じた。
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