あわいきもち

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□□□□□□□ あれから1週間。なんとはなしにあのバス停留所に足を向けた。 今日も嫌な雨が降り頻る。 ステッキと雨は不協和音。交わることのない音楽を奏でる。 微かな靴の音を聞いた。 「あれ? 君はあの時の……」 聞き覚えのある声に立ち止まる。 「え? ……ああ! その節はありがとうございました」 声のした方に微笑み、お辞儀をした。 心無しか彼の声が上ずっている? 「いえ、当たり前のことですよ」 在り来りな言葉。でも、飾り付けられた言葉より清々しい。立ち去る訳では無いようだ。 私を待っていた? 暇だしと。 「お暇でしたら、座ってお話しませんか? 」 もしかしたらと提案してみる。 「は、はい! 」 案の定、だったようだ。 並んでベンチに座る。 そして、徐に口を開いた。 「私の目、事故で見えなくなったんです」 赤の他人になら話せる。私に好意ある人なら聞いてくれると期待して。 「それは……大変でしたね」 心無しか苦しそうだと感じる。共感? それとも……。 「ええ、思い出せないんですけどね。どう事故にあったかも、何故自分がそこにいたかも」 「記憶喪失……ですか? 」 俯きながら少し黙り込む。 「どうなんでしょう? ……その日の記憶だけないんです。《10年前》のあの日だけ」 《10年前》と言った瞬間、空気が変わったきがした。 長い沈黙が流れた。
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