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「……なに、それ……」
私の呟きが健太郎にはきつく聞こえたようだった。
何気なくしていたことが、これほど友人を傷つけていたなんて。そう心を痛めているのがよくわかる。
なんだ……そういうことだったのか……
九州出身の母は、今もずっと九州の甘い醤油を使って味付けをしていた。
その味は、彼にとって地元の味で、彼女との思い出の味だったんだ……
「……ごめん」
もう一度、謝られて、私は息をついた。
「……もう……いいよ?」
「でも……」
「健太郎が、どれだけ彼女を好きか、わかったから……」
本当は傷ついていた。でも、そう言わないと、心が納得しないと思った。
私はいつの間にか頬に流れていた涙を拭いて、健太郎をまっすぐに見つめて言った。
「でも、もうお弁当、取りに来ないでね」
「……」
「明日からは自分でお弁当作るから。お醤油の味も変えて、特別美味しい調味料を使って、今よりももっと美味しいお弁当作るんだから」
そんなの、簡単に作れるわけないのに。
でも、そう言いたくなったんだ。女としてのプライドだった。
健太郎は困ったように眉を寄せ、「……わかった」と言った。
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