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健太郎が転校してきて、一か月が経った時だった。
健太郎が持っていたスマホを落とした。
私の足元に現れたスマホを拾い上げて、彼に渡そうとした時、スマホの画面に手が触れて、真っ暗な画面にライトがついた。その時、待ち受け画面が見えてしまった。
健太郎の隣に、黒髪の、目のまるい、愛らしい女の子が立っていた。
「これって……」
「ああ。中学の時の俺、若いだろ」
そっちじゃなくて。と突っ込む前に、「うお!見えちゃった!」と言いながら健太郎の背中にとびかかってきたクラスメイトの山辺君が言った。
「隣の子、誰? 可愛いじゃん!」
健太郎は苦笑いを浮かべていた。
お得意の必殺綺麗な笑顔の愛想笑いで、ごまかそうとしていると感じた私は、自ら言ってしまった。
「……お似合いだね? ……彼女?」
「……うん」
恥ずかしそうに、けれど、とても幸せそうに微笑んだ健太郎の姿を今でもよく覚えている。
「九州で、彼女いたんだ」
声が震えた。
「九州で、じゃなくて。今もだよ」
「……遠距離ってこと?」
「そう」
「へー。心配じゃねえの?」
山辺君の言葉の後、健太郎は、今まで見たこともない切なげな表情でスマホ画面を見て、聞いたことのない低い声で言った。
「すげえ。心配」
私はその横顔を吸い込まれるように見つめていた。
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