たった5分の幸せ

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あれから五か月が過ぎた。 健太郎と彼女がどうなったのか、私は知らない。 そういう話をする機会がなかったというのもあるし、何より聞くのが怖かった。 心菜は「もう別れたんだよ。きっと」と言っていた。 「高校生の青春なんて、家と学校がすべて。これほど遠く離れて、半年も付き合っていられるはずないよ」と。 「毎日、美青のところへ来ているのは、きっとそういうことだよ」と。 本当は心菜の言葉が嬉しかった。 実際、健太郎が仲良くしている女の子は、私だけだったから。 心菜の言葉が真実なら、これから私は健太郎と恋をすることができるからだ。 お弁当の時間が始まって訪れるたった5分の幸せの時間を、24時間ずっと過ごすことができる。それはきっと味わったことのないような幸福感なのだろう。 「本当に……いいの?」 お弁当を食べ終わる頃、もう一度心菜にそう聞かれると、本当の気持ちがわからなくなっていた。 友達という居心地のよい関係を壊したくない。傷つきたくない。 けれど、もし、1パーセントでも可能性があるなら…… もうすぐ春が来る。二年生になれば、クラス替えがある。私と健太郎は、離れてしまうかもしれない。 もうお弁当の時間すら、会えなくなるのかもしれない。 それは嫌だ。と私の中の私が強く言った。
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