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珍しく降った雪が溶けて、柔らかい日差しが水たまりに反射していた。
雪解け水と、まだ少し残った雪が、町中をキラキラと輝かせていた放課後の帰り道、通学路に健太郎がいた。
きっと、どれだけ小さくても、私は彼を見つけてしまうのだろう。
信号待ちで立ち止まっている健太郎が、青になったばかりの信号を渡ろうとした。
待って! と心が叫んだ時、私の口は無意識に彼の名前を呼んでいた。
「健太郎!」
突然走り出したのが、いけなかったんだ。
よく考えればわかることなのに。
あっという間に、私の視界から健太郎が見えなくなって、今見ているのは、透き通った水色の空と、流れる白い雲だけになった。
ドスンと可愛げのない音と共に、お尻に鈍痛が走りぬける。
「いたたたた」
「何やってんの」
呆れたような声が聞こえた瞬間、体が軽くなった。
私は二の腕を掴まれて、軽々と持ち上げられていた。
「健太郎……」
「振り向いたら、ひっくり返ってるし……」
口元に左手を置いて、笑いをこらえている。
右手は、私を掴まえていて、二人の距離は今までにないくらい近くて。
私の胸の心音は、早鐘を打ち続けている。
「ご、ごめんね。……ありがとう」
雪解けの水に足を取られ、転んでしまったなんて、恥ずかしすぎる。
真っ赤になる私を見て、また健太郎が笑う。その笑顔に胸の奥がキュウと鳴いた。
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