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雲間から太陽が出て、先ほどよりも強く、雪解け水を反射させていた。
健太郎の表情が見えなくて、私は彼の腕を掴みたい気持ちになった。
どうか答えて、私の想いに。
けれど、腕を伸ばす勇気なんてあるはずもなく、私は小さく握りこぶしを作る。
雲が動いて太陽が顔を出した。彼の顔が見えた。私は彼の目をまっすぐに見つめる。
彼の長い睫毛が、静かに揺れた。
「……ごめん」
健太郎はうつむいた。
そして、そのまま言葉を続ける。
「俺……、地元に……彼女がいる」
知っていたよ。
知っていたの。
本当は……わかっていた。
健太郎の性格。
コロコロと好きな人が変わるような人でないということも。
だから、期待したんだ。
健太郎は、私だけのところへ来てくれていると思ったから。
私は健太郎の特別だと思いたかった。
「……健太郎がいつもお弁当の時間に来てくれるから……私に会いに来てくれているんだって思ってた……」
健太郎はもう一度深く頭を下げると「……ほんと、ごめん」と言った。
(もういいよ。何度も謝らないで)
そう言いたいのに、やっぱり言えない。
今、言葉を紡げば、涙が溢れると思ったから。
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