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「悪趣味。見てたの?」
笑った私に気づいた彼が、こちらを見て言った。
「うん。ごめん。お世話係だし。どこへ行くのかなって、気になって」
「まあ、行くとこもないしね」
「あのさ、一緒に食べる?」
「え?」
「お弁当」
「……いいの?」
「いいよ。私、お弁当箱大きいから」
「ほんとだ。マジでかい」
「うるさい。本当のこと言うな」
その時、私が持ってきていたお弁当の半分を彼が食べたことがきっかけで、彼は母の料理にはまり、それ以来、嘘か本当かわからないけれど、私の弁当を生きがいに学校へと来るようになった。
「健太郎って九州弁出ないね」
「ほんと? 気を付けてる」
「別に出ても大丈夫だよ。私のお母さん、九州出身だし、慣れてる」
「マジ? それは助かる」
そんな会話を繰り返し、二人でお昼ご飯を食べる日が続いた。
転校生君を健太郎と呼び、健太郎も私の名字を呼び捨てするようになった頃、健太郎には女子のファンができ始め、気さくな性格に惹かれた男子がたくさん群がりだし、健太郎は、半年前に転校してきたとは思えないほど、クラスの中心的人物となっていた。
お世話係の私の役目は、いつの間にか、健太郎を取り巻く女の子にとられ、お昼を共にすることもなくなった。
今、私と健太郎を繋ぐものは、母が作るお弁当を食べ始める5分間、彼が私の元へやってくる時間だけになっていた。
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