第一譚 猫目と武士の白昼夢

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 今日も明け方近くにトイレに起きて、ベッドに戻る最中に白昼夢を見たんだ――。  白昼夢の中で、僕は武士を見た。  びっくりするだろう? 武士だよ?  地味な色の甲冑をまとい、栗毛の馬に騎乗し、槍を持っている。  顔には皺が刻まれている。かなりの老齢だ。昔の人は短命だって言うけれど、長生きした人もいるらしい。  武士がいるのは、ススキ野原。視界の果てまでススキばかりで、木々はまばら。血のように赤い夕日が、少し怖い。空には、カラスが群れを成して旋回している。責め立てるような調子で鳴き声を挙げている。  武士はススキ野原を抜けた。水田が現れ、集落が見えてきた。家は木造、屋根は茅葺き。  集落があるのに、農民の姿はない――いや、地面に、あった。  (むくろ)がある。  ただの骸でないことは、一目で判る。手足はやせ細り、腹が大きく膨れ、皮膚は黄色くなっている。老若男女が死んでいる。皆一様に、腹が異常なほど大きく膨れて死んでいる。地獄絵図で描かれる()()にそっくりだ。  武士はこの惨劇を見つめながら呟く。 「すまぬ……」  稲が青々と実っている。豊作は約束されていた。  なのに民は死んだ。  全滅だ。  武士は水路を観察する。  水底が、巻き貝でびっしり埋まっている。 「やはり、タニシか」     
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