第一譚 猫目と武士の白昼夢

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 神社の近くに川がある。岸には背の低い笹竹がびっしりと生い茂っている。水量は少ない。渇水のせいだろうか。  取水口らしきものが向こう岸に作られており、そこだけは水が流れていて、川を横切るように水が通されている。  武士は涸れた川を渡る。  土手を越えると、大きな沼があった。水はここから引いてきているのだ。  岸辺には篠や葦が密生している。根元に白いものがチラチラと見える。それが人骨だと判るまでに少し時間を要した。この沼で、大量に人が死んだらしい。 「沼のヌシよ! なぜだ! なぜ殺したッ?」 「うぬは虚けか」  篠の茂みの向こうから、声がした。武士は咄嗟に槍を向けたが、そいつは身構える暇もないほどの速度で走ってきて、槍を弾き飛ばし、武士を押し倒した。  老婆だった。  その顔には、びっしりと巻き貝がついていて、手には大きな爪が生えている。色鮮やかな着物を身にまとっている。神社にあったあの着物と似ている。 「呪いの恐怖を味わい、なおもこの沼に参るのか」 「わしは平治の激戦とて怯まずに突撃した」  武士は反撃しようとするも、老婆の怪力に易々とねじ伏せられる。金具を噛みちぎられ、鎧は剥かれ、武士の喉が露出する。 「沼の水は、民に必要だった!」 「人の道理など知らぬわ」     
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