第一譚 猫目と武士の白昼夢

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 語り終えると、電話の(ぬし)は大きな溜め息をついた。 〔巻き貝ときたか〕 「あんまり真面目に捉えるなよ。どうせデタラメな内容だし」 〔当たっていることもあったじゃねえか〕  たしかに僕の白昼夢は、無視できないほどのリアリティを持っている。 〔夢を持ち続けるのも、才能の一つだぜ? 陸ちゃん〕 「ちゃんづけやめろ。僕は男だ」  僕はテレビのリモコンを手に取った。朝のニュース番組をつけておく。 〔石碑ってのが気になる。ちょっと絵を描いて送ってくれ〕  僕はスケッチブックに絵を描くと、スマホで撮影してパソコンのアドレスに画像を送りつけた。相手はスマホを持っていない。いまは家電(いえでん)で話している。  通話相手はしばらく考えこんでいたが、ぽつりと言った。 〔板碑(いたひ)だな。仏教の供養塔でな、鎌倉時代あたりから盛んに作られた。刻まれている文字は梵字だ〕  こいつの特技は、人力検索エンジン。  古代や中世の日本史や考古学にかけての知識なら、検索せずにすらすらと口からだしてくる。  たとえば古墳なら、名称や地理みたいなメインの情報だけでなく、作られた時代、見つかった年代、出土した副葬品の一つ一つまで覚えている。凄すぎないか?     
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