第一譚 猫目と武士の白昼夢

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 白昼夢で見た石碑と、まったく同じ形のものが写っていたからだ。細部が削れ、折れるように割れていて、かなり修復されているけど、経た月日を考えれば妥当な変化だと言える。 〔川辺の板石塔婆。文永八年造立。埼玉県桶川市にある板碑で、文化財に指定されている。似てるだろ?〕 「似てるどころじゃない。完全に、そのものだ……」  白昼夢の内容から、こいつが場所を割りだしたのは初めてじゃない。相変わらず異常に勘が鋭いヤツだ。 『桶川市でまた痛ましい事件が起きました』  テレビから流れてきたニュースにも、桶川市という単語が重なって、僕はテレビに目を向けた。 『警察は連続殺人事件に関連があるとみています』  キャスターが、ゲストたちと会話を始める。 『女子高生の入水自殺もこの近くなんですよね?』 『事件の三週間前ですか。神隠しと騒がれた事件ですね』 『現地では祟りなんじゃないかって噂も立っているそうで』 「……おい。テレビつけろ」 〔あん?〕 「早くつけろ! ゆうべ一緒に見ていた局だ」 〔ん。これ……〕  相手も同じニュースを見たらしい。黙りこんだ。  ニュース映像に、川辺の板石塔婆が写されている。 〔ちょくちょく見たニュースだな。桶川市だったか〕 「猟奇連続殺人……」  テロップには『遺体にはまた爪痕が!』という言葉がある。 〔こいつが犯人だ〕 「どいつ?」 〔あやかしだよ。爪があったんだろ?〕     
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